「Gene」
セルフライナーノーツストーリー

第3話「全部、いらないのに」
19歳 男性 大学生

大事にするってなんだろう?

だい-じ【大事】
[形動][文][ナリ]
価値あるものとして、大切に扱うさま。「―な品」「親を―にする」「どうぞ、お―に」
 重要で欠くことのできないさま。ある物事の存否にかかわるさま。「―な用を忘れていた」「今が―な時期だ」

どうしようもなく退屈な授業の合間、手持ちの電子辞書で引いてみた。
なんだこれ。全然わかんね。
“大切に扱う”って…その”大切”が知りたいんすけど。
…どうやら、辞書に答えは載っていないらしい。

先週、2年続いた彼女と別れた。
彼女とは、入学式で出会った。
正確には、出会ったというか、俺が一方的に彼女を知った。
勇気を振り絞って声を掛け、連絡先をやっとの思いで交換し、付き合い始めたのは夏少し前、雨の降る6月だった。
所謂(いわゆる)一目惚れから始まった恋だから、ずっと不安があった。
いつだって、俺の方が彼女のことを好きで、彼女は他にも沢山大切なものがあるような気がしていた。
俺だけの彼女でいて欲しくて、他の全部を捨てて欲しくて、何度も喧嘩になった。
どうしてだろう、ただただ大事にしたかっただけなのに。
うわ、俺、 重たい。苦笑
「付かず離れずが恋の術」と、あの歌の歌詞にもあったこと、すっかり2年間忘れてた。
もういいや、授業受けてる気分じゃない。
今日は休講ってことにしよう。

授業料出してくれてる親には悪いと思いつつも、学校を抜け出して一人で街をぶらぶらしていると、段々と冷静さを取り戻した。
冷静になればなるほど、喧嘩の中身もここ1年くらいの俺の行動も、恥ずかしく思えて バツが悪い。
今たぶん俺、とんでもない顔してるな。
そう思うと全く上を向いて歩く気にはなれなかった。
別れ際に言われた言葉が頭をよぎる。
どうも喉元にひっかかったままの言葉。
「信じて貰えないんだね。それが一番悲しいよ。」

別れるきっかけになったのは、1ヶ月前、彼女の家に泊まりに行ったときのことだった。
偶然深夜に彼女の携帯に、LINEが来た。
男の名前だ。
見ちゃいけないものを見たような気がして、よくわからないけど心臓がドクドク波打つのが聞こえた。
手は震えるし、頭の中真っ白で、身体中から精気が抜けていくような感覚がした。
それでも横の彼女は何の気なしに寝ている。
 ここで起こしてキレるのも男らしくない。
落ち着かなくて、冷蔵庫から水を取り出して、 わざと大きな音を立てて冷蔵庫の扉を閉めた。
コップをカタっと置くと、彼女が目を覚ました。
「まだ起きてたの?」
彼女が全くこの現状を把握していないことに、無性に腹が立った。
「LINE来てたよ。男からだった。」
その一言で彼女は全てを悟ったようだ。
先に言っておくが、彼女は浮気をしていた訳でも、言い寄ってくる男がいた訳でもない。
俺の勘違いと、彼女の幼馴染のタイミングの悪さが重なっただけだ。
男の正体を知りたい俺は散々問い詰めて
彼女を責めた。
彼女は何一つ言い返さなかった。
他に好きな人がいるのかと聞いても、浮気なのかと問い詰めても、何一つ反応が無かった。
俺にはその理由が全くわからなかった。
たったひとつ。
「なんで何も言い返さないんだよ。」
そう聞くと、彼女は応えた。
最初で最後の、彼女の言い分だった。
「だって今何言っても信じないでしょ?」
この一言、本当にぐさっときた。
俺はずっと、やましいことがあるから何も言えないんだと思っていた。
「信じて欲しかったから、何も言わなかった。」
そんな考え、1ミリも存在しなかった。
そうか、俺の心は濁ってるんだ。
そう思うと途端に申し訳ない気持ちになった。
翌朝、何かが壊れたことは言うまでもない。
覆水は盆に返らない。
一度離れた心は元には戻らないらしい。
肩に寄りかかってDVDを観ていた彼女はもうきっと帰ってこない。
エンドロールが流れて、こんな風に結婚して年老いて、それでもずっと好きでいたいなんて思っていたことはもう死んでも口に出せない。
全て、自分で壊してしまった。
なんてことしちゃったんだろう。

気がつけば、もうこんなところまで歩いてきたのか。
「ごめん」とか「ありがとう」とか、たぶんそんな言葉はいらないよな。
ちゃんと最後は自分で言おうと思うよ。
さよなら。
さよなら。

新しい自分と、彼女を想って、さよならを空に浮かべた。


 

 

 

全部、いらないのに

作詞・作曲 福島拓也

 

大事にするってなんだろう?

会えなくなってからは

そればかり考えてて

わかんなくて、、

言葉にならないモヤモヤを抱えるよ 

 

大抵どんなものも

二つで一つなんだよ

靴も時計の針も

わかってるよ

一人になったんだ

 

「信じてもらえないことが何よりも悲しいよ」

違うよ、ちゃんと信じてた

伝わらない

届かない

 

カメラロールの中では

まだ君が笑ってた

もう一度かざしても君はいない

"今でも好きだよ”

君のいない景色に

そっと呟いた

 

下を向いて歩いたら

揃った靴が笑うから

逃げるように見上げた空

君が好きな映画を

思い出した

 

「何回同じの見るんだよ」

呆れて笑っていたけれど

セリフ真似する君がいたのも

幸せだったのかもね

 

エンドロールが流れる間

僕も未来を描いてた

未来図のどこにでも君がいた

どこに捨てたらいいんだろう

叶わない想いも痛みも

持て余してしまうよ

 

友達に戻るなら

出会いからやり直せないかな

もう一度側にいて欲しい

その笑顔に救われてた

帰る場所は君だった

「大事にする」ってこと

分かってきた

君と引き換えに気づいたって

意味がないのに

 

ガキみたいだねって笑われても

早く忘れなよって言われても

誰かに言われて変わるものじゃない

 

同じ漫画で笑って

同じ映画で泣いて

同じ思いでキスをして

同じ今日を生きたい

 

今でもまだ君が好き

今までよりも君が好き

初めて言うよ

愛してる

ハッピーエンドに

ならないのならせめて

届くまで伝えたいと思う

 

さよなら

さよなら