「Gene」
セルフライナーノーツストーリー


第7話「優しくなれなくて」
25歳 女性 モデル

 

モデル。
そう言えば大抵の人が「凄いね」って言ってくれる。
一目置いて扱ってくれる。

たまには
「 でもね、思った以上にこんな生活も大変なんです。」
なんて言ってみて、本当はその大変ささえも自慢したかった。
羨望(せんぼう)がなくなることが怖かった。
次の仕事がないことが怖かった。
周りのモデル仲間が雑誌に載ると焦った。
自分より売れている年下の子と話すのが嫌だった。

…昔から私は、劣等感の塊だった。
羨望が欲しいのも、有名になりたいのも、"認められて”生きていたいから。
自分より世間に認められている人と話すと、人格を否定されているような気にさえなる。
劣等感から生まれた被害妄想の塊。
それが、私の正体だ。

だから、必死で自分を磨いた。
たまたま、日本に生まれたアメリカ人。
人とは違う”私”をアピールしてきた。
そのおかげで、なんとか少しずつ世間に認められてきたけど、ずっと満たされない心を抱えている。
必死にアピールしなくても、世間から注目されたかったし、できることなら、誰にでも愛されていたい。
でも現実は、頭を下げて、やっと仕事が決まるかどうか。
そんな毎日だから、仕事が決まっても不安は拭えない。
不安を拭いたいから、どんな仕事でも決まったら全て受ける。
どんな予定が入っていても、だ。

今日も、まさにそんな感じだった。
久しぶりに実家に帰る予定だった日に、仕事が入った。
勿論受けた。
私が帰ることを楽しみにしていた母と、喧嘩になった。
口をついてでる言葉は、
「It’s not my fault.」(私のせいじゃない。)

わかっている。
私のせいだ。
思い出してみれば、いつだってそうだった。
大事な人も約束も、私は沢山裏切ってきた。

わかっている。
そうやって友達や大事な人を失ってきたこと。
言い訳や嘘が得意になって、信頼を失ったこと。

本当に欲しかったものは、今まで失ってきたものだった。
満たされない心を埋めてくれるのは、近くにある愛情なのだと思う。

それを得ることは、変な話簡単なんだと思う。
私が”私”を捨てて、迎合すれば良いのだから。
仕事を辞め、付き合いと良くし、誰の誘いも断らなければいいのだから。
でも、それは”私”を捨てることになるだろう。
果たしてそれで、私は満たされるのだろうか?
きっと、満たされなくてまたそこで泣くのだろう。

だから。
もう少し、このまま頑張ろうと思う。
もう少し、自分の可能性を信じて生きていこうと思う。
私なりの方法で、大事な人に愛情を伝えたいと思う。
私の好きな”私”で「ありがとう」と言えるように。

何も変わらない毎日を、少し変えることは、簡単だ。

 

 

 

優しくなれなくて

作詞・作曲 福島拓也

 

悩みがないように見えるとか

全部うまくやってそうだとか

そんなことないよ

いつも笑っていれる程

強くも弱くもないよ

 

先輩や上司には気を遣うし

飲み会や集まりも苦手だよ

叱られることも誘って貰えるのも

ありがたいとは思うけど

愛情なんだけど

 

作り笑いばかりでうまく笑えなくて

楽になれる場所探してた

弱い私が

ここにいる

 

誰かのせいにして

周りのせいにして

自分のせいにはできなくて

優しくなれなくて

手を伸ばせばすぐそこにあったのに

 

満たされたなら飽きてしまうし

満たされないなら求めてしまう

喜びには慣れて

悲しみにはいつまでも

敏感なままだ

 

全部投げ出して遮って

寂しさ込み上げて

温もり探して気がついた

孤独な私が

ここにいる

 

誰かのせいにして

不幸なせいにして

自分の世界を築いたら

誰もいなくなった

 

 

孤独なばかりの旅路だ

幸薄い人生だ

ああ、言い訳ばかりだな

情けないな、私は

 

誰かのせいじゃなく

不幸な訳じゃなく

優しさは側にあった

そのままの私でよかったんだ

 

偽ることじゃなく

取り繕うことじゃなく

そのままの自分を出す

小さな勇気を持つ

 

もう誰のせいにもしない

一人じゃもう寂しい

一緒に生きていきたい

手を伸ばせば届くんだ